2023年12月、サマンサタバサジャパンリミテッドが冬季賞与不支給のIRを出し、世間で話題となっております。
倒産危険度ランキングでアパレル部門7位に入るなど、その業績はかなり迷走しております。
一時期は栄華を誇ったブランドでもあるサマンサタバサ。何故ここまで凋落することになってしまったのでしょうか。
今回はブランド業界でレディースアイテムのトレンドに詳しい、中の人井出が幅広く分析して参ります!
※本記事では上場企業の株価に関する記載がありますが、企業の業績や株価を確認する用途で引用しているものになります。また、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、売買を推奨するものではありません。
目次
サマンサタバサってどんなブランド?
日本では絶対的知名度を誇るブランドのサマンサタバサ。どのようなブランドなのでしょうか。
時の始まりは1994年、寺田和正氏が「サマンサタバサジャパンリミテッド」を設立したことから始まります。
ブランド名はアメリカの大人気ドラマ「奥様は魔女」のサマンサとタバサから取られているのでは?という噂話がありますが、これに関して寺田氏は否定しているようで、社名の由来は秘密だそうです。
モデルの蛯原友里さんや板野友美さんといった人気絶頂のモデル・芸能人に加え、海外セレブのミランダ・カーさんやビヨンセさんを広告塔に起用するなど、その華々しいプロモーション手法で話題になりました。
寺田氏が非常に経営戦略に長けた方というのはもちろん、実際に自身のご両親と共にヒルトン姉妹に説得して契約を取り付けるなど、かなりバイタリティのある経営者であったことが伺えます。
価格帯としてはミドルブランドに当たるブランドで、イメージとしては上記の通り華やかでキラキラとしたイメージです。
ターゲット層としてはティーン〜20代前半といった印象が強いですが、バッグの他にもジュエリーの展開もあることから、その年齢層は比較的広いのではないかと感じます。
引用:サマンサタバサレディース プレス発表会&スペシャルイベント
サマンサの業績が軟調な理由として考えられること
さて、サマンサタバサの業績が軟調な理由として何が考えられるのでしょうか。
その裏には、ファッショントレンドの変化やファストファッションブームなど、様々な理由が複合的に絡んでいると言えそうです。
早速ですが、一つずつ紐解いてまいりましょう。
2023年12月15日現在での株価。非常に軟調な推移を表していることが読み取れます。
ファッショントレンドの変化
10年前と今のファッションのトレンドが大きく変化している
サマンサが勢いのあった2010年ごろと2020年のファッションのトレンドを比較してみると、やはり「納得」としか言えない結果になっているのがわかるかと思います。
わかりやすく10年前のファッションと今のファッションを比較したイラストを描かれているXユーザー:さといも屋(@petit_flare)さん の画像を引用させていただきました。
ああ〜わかる〜とこの画像を見た瞬間大納得してしまった自分がいました。
10年前のトレンドは【ガーリーなモテ服】という感じだったと言ったら良いのでしょうか…本当に10年前のファッションってサマンサ!って感じだったんですよね。
2020年と2023年現在で多少トレンドは変わっている部分もありますが、やはり傾向としてはスカートはミニ丈ではなくロング丈、シンプルでスポーティーなアイテムが流行っているので、こことサマンサのキラキラ感との相性が悪いのは頷けます。
引用:『今と10年前のファッションの違い』の絵に共感の嵐 「着てたー!」「あるあるすぎる」
引用:さといも屋(@petit_flare)さんのイラスト
トレンディなブランドのCFCLについてはこちらもどうぞ:CFCLってどんなブランド?
ミニマリスト・シンプリストブームの到来
世間でも話題のミニマリスト・シンプリスト。
無駄を削ぎ落として丁寧な生活をする彼らに世間の関心は高く、そこがファッショントレンドにも影響しているようにも思います。
ミニマリストブームが浸透し始めたのが2015年ごろと言われており、それに反して点対照のグラフのごとくサマンサの業績は2015年をピークに下降トレンドに…
先ほどのファッショントレンドの変化と同じではありますが、アイテムに複数色使われたり、キラキラビジューのついたサマンサのデザインはミニマリズムと相反するものなんですよね…
ファストファッション(プチプラ)が強すぎる
正直これがかなり大きい理由ではないのかと思うのが、ファストファッションブランドのプロモーションが強すぎる…ということ。
以前はSHEINやGRLといったプチプラでトレンド性の高いブランドがほとんどなく、ユニクロやしまむらも今のプロモーションとは違い、言い方は悪いですが「ダサい」「野暮ったい」というイメージがありました。
ユニクロ「で」いい。から、むしろユニクロ「が」いい。
そういったファストファッションブランドの躍進によって、若年層の少ないパイをほぼほぼ奪われている状態であるのが現状と言えそうです。
そして、プチプラ=安かろう悪かろうというのも昔のお話。今は安くても質の良いものが多く出てくるようになったことも拍車をかけています。
実際、革職人Youtuberの「新進工房」さんもユニクロのバッグを大絶賛されていました。
インスタグラマーやYoutuberなど、SNSの台頭による影響(ハイ&ローファッションの流行)
最近はファッション紹介インスタグラマー・Youtuberも多いですよね。
インフルエンサーの影響でよりファストファッションブランドの購買につながっている印象があります。
また、そういったインフルエンサーのファッションを見ていると洋服はプチプラでバッグはハイブランドという方が多いような。
そういったメリハリのあるハイ&ローのファッションが世間で受けている関係で、中間価格帯であるミドルブランドが苦戦を強いられている部分はありそうです。
リセールバリューが低い
ミドルブランドは概してリセールバリューが低いのですが、特段サマンサはリセールバリューが低いブランドです。
参考記事:日本人に人気のコーチ。コーチの買取はなぜ安い?
買取店の内情をお話しすると、サマンサは定価が4〜5万円のある程度綺麗なバッグでも買取店では〜1,000円程度の買取金額になってしまいます。
また、最近はメルカリの登場によって「物の出口戦略」を考えてから購入する方も増えたのではないでしょうか。
やはりリセールバリューが悪い、要は需給が悪いブランドはどうしても敬遠されがちで、結果的に業績の下落につながってしまうのではないかと考えます。
ブランドイメージの刷新・面白い取り組みをしているブランドってある?
さて、迷走する業績やブランドイメージを改善したところ、面白い試みをしているところってどこかあるのでしょうか?気になりますよね。
個人的な意見も入っていますが、一例として3つのブランド(企業)をご紹介いたします。
ボッテガヴェネタ
レザーの質の高さや作りの細やかさから職人気質なブランドとして有名なボッテガヴェネタ。レザーを互い違いに編み込んだ「イントレチャート」がアイコンアイテムですね。
以前はどちらかというと「おじさまおばさま世代に人気」というイメージが強く、若年層に受けるブランドではありませんでした。
そんなボッテガヴェネタですが、2018年にダニエル・リーがクリエイティブディレクターに就任し、数々のヒットアイテムを生み出すこととなります。
まず代表的なものとしては、イントレチャートの網目を大きくした【マキシイントレチャート】をリリース。
編み目を粗くしたことで表現の幅が広がり、もちもちした質感のパデットカセットなど、伝統に重きを置きながらも新しいボッテガの一面を見せてくれることになりました。
ふっくらとした見た目が特徴的な【パデットカセット】
またイメージカラーとしてパラキート(パキッとした緑色)を用いたりするなど、かつてのボッテガヴェネタのクラシカルなイメージを一気にモダンなテイストに持ってきたことで、今までになかった若年層からの支持を多く得るように。
残念ながらリー氏は2020年に退任してしまいましたが、今後のボッテガヴェネタの展開に期待ですね。
三陽商会
三陽商会って…どこ?とお思いの方。「バーバリーブルーレーベル」と聞けばピンとくるのではないでしょうか。
2015年に長年蜜月関係にあったバーバリーと訣別したことで、ライセンスブランドからバーバリーの冠が取れて【クレストブリッジ】に改名されたことが話題になって久しいですね。
上記は三陽商会の株価ですが、株価から見てもバーバリーのライセンスが切れた影響は非常に大きかったことが読み取れます。
※ちなみに株価が最高潮の2005〜2007年ごろは、蛯原友里さんがcancamの誌面を飾っていた時代で、いわゆる赤文字系ファッションとして非常にブルーレーベルの人気があった時代です。サマンサの株価もこの頃好調でしたね。
そしてそこにコロナ禍。泣きっ面に100匹蜂くらいのレベルです。
また同時期にカラーの近い同業他社の【レナウン】が破産。アパレル業界に大きな衝撃を与えました。
私自身も当時は「三陽商会もその後を追ってしまうのか…」と感じざるを得ませんでした。
苦境に追い込まれたであろう三陽商会ですが、なんとここから怒涛の巻き返しを見せることとなります。
2023年11月決算期はアフターコロナによる百貨店売上が好調なことに起因してなんと業績を上方修正。決算発表後はストップ高になるなど、株価に大きな影響を与えました。
まだまだ完全復活とは言えないかもしれませんが、一時期は終わったとすら思われていた三陽商会。
業績を上方修正まで戻してきているのはかなりすごいことではないでしょうか。
4℃(ヨンドシー)
クリスマス間近になると何かと話題になる4℃。一部SNSの影響から女性によっては敬遠されるブランドになってしまい、
なんて風評被害を受けるなど、ブランドイメージによって打撃を受けている代表的なブランドの一つではないでしょうか。
皆さん4℃に何かされたのでしょうか?お気の毒に思ってしまいます。
そんな4℃ですが、「もはや4℃というブランドがあるからダメなんじゃないか」と経営陣の皆様は考えられたのでしょうか…
2023年9月には東京・原宿で「匿名宝飾店」が開かれ、4℃の名前を伏せて販売したけれど実は4℃だったという、4℃ジュエリー本来の価値に気づける面白い試みが話題となりました。
タイムレスなデザインも多く、長く使えるはずである4℃のジュエリー。
ブランドイメージで本来の価値を見失うのは悲しいことであると感じる反面、ブランドイメージが与えるインパクトは大きいということを実感させられる一件ですね。
【個人の意見】サマンサが復活できる案を考えてみた
ロゴをなくしてシンプルにし、時代に即したデザインに一新する
まずは時代に即したデザインに一新する案でしょうか。
2023年は「クワイエットラグジュアリー」が流行っていますし、ブランドロゴをなくしてデザイン性や質で勝負する方向で攻めるのはありかもしれません。
サマンサらしさは無くなってしまうかもしれませんが、また注目されるブランドになるかもしれませんね。
低価格帯にして超若年層の需要を狙う
いわゆる今のサマンサのイメージである、「キラキラしたポップで可愛い路線」を突き進むのであればこれしかないのかなと思っています。
それこそ小学生くらいまで対象年齢を下げて、小中学生向けのファッション誌にトレンディなブランドとして取り上げてもらうのも一つの手かもしれません。
ただし…個人的にはこの戦法は命取りになる可能性があります。
その例として【ココルル】があります。懐かしいですね…
1990〜2000年台前半にアメカジ・ギャルブームで大人気だったココルル。デニムの後ろポケットにロゴプリントされた「ケツルル」が大人気でした。
一世を風靡したココルルですが、やはり移り変わりの激しいファッショントレンドには抗うことはできず…
最終的にはかなり低価格帯に下げ、子ども服を展開するなど企業努力を重ねてきたものの、残念ながら2016年にそのブランドの歴史に幕を閉じることとなりました。
引用:SHIBUYA109”マルキュー”を賑わせた伝説のブランド:ココルルとジャッシーの魅力
まとめ:ファッショントレンドって奥が深い…
いかがでしたでしょうか。
個人的にはサマンサは何か看板アイテムがあればここまで崖っぷちにならなかったように思います。
ただ、看板アイテムがあると逆に大衆化して「ダサい」となりかねないのもまた事実という二律背反…
また、ハイブランドのように品質・マーケティングともに盤石なものであればまた違ったかもしれません。
サマンサが返り咲く日は来るのか。今後の展開に期待しましょう!
次回のブログもお楽しみに。